百代の過客

旅行記とか日々を気ままに書いていく予定です

初夏の房総横断旅

この状況下での旅はかなり迷った。
普段東京方面に通勤しているから尚更だ。
しかし、新年度が始まって数か月、色々要因が重なって精神的にしんどくなってしまった。
だからこれは「必要火急」の旅である。うん。

 

 

まだ梅雨が明けない7月中旬の日曜朝、千葉県の五井駅に降り立った。
千葉駅から5駅、東京駅から総武快速線の君津行きに乗れば1時間程の距離だ。
ここから小湊鉄道に乗車する。

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自前の駅舎を持たず、JRの改札内からの入場となる

小湊鉄道五井駅から上総中野駅に至る私鉄である。
沿線にある観光地としては養老渓谷がある他、近年新たな地質年代区分として登録された「チバニアン」の由来となった地点が存在する。

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五井駅でも「チバニアン」をゴリ押し

ここから乗車した里山ロッコは、かつて同線を走っていたという蒸気機関車を現代に再現した観光列車だ。

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外見は完全に蒸気機関車だが、ディーゼルエンジンで動く

客車の一部は窓のない展望車となっているので、迷わずそこに着席。
9時9分、定刻通りに五井駅を発車。

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客車の中は天井から空を覗ける様になっている

ブロロロロ・・・」見た目とは裏腹にディーゼルエンジン特有の音が鳴る。
「ダン、ダン、ダン、ダン・・・」二軸(一車両あたりの車輪が2本だけ)特有の走行音が響く。
田園風景の中を、最高速度30km/hのトロッコはゆっくりと進む。
雲に覆われていた空は、トロッコが走り出すと青空も覗ける様になっていた。
雨にも備えて上下レインウェアをリュックに入れてきていた筆者だったが、まさに「杞憂」に終わった訳だ。

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夏到来を思わせる車窓

途中、線路に並行した道路を走る車から女の子が手を振ってくれたり、停車駅ごとに地元の方々が物販を行っていたりと、道中は飽きない。

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里見駅で購入したラムネと

田園風景中心だった車窓は、里見駅を機に「里」から「山」へと移り変わる。
水が滴る切通やトンネルを通過する時に涼しく感じられるのも、展望車の特権だ。

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地味に読めない「飯給(いたぶ)」。日本武尊由来の地名らしい

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月崎駅の風鈴も涼しさを演出

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高さ20mと同線最高の橋、養老川第四橋梁で徐行運転のサービス

列車は普通列車の約2倍の時間をかけて養老渓谷駅に到着。
次の列車まで1時間ほどあるので、駅周辺を歩いてみる。

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養老渓谷駅の駅舎

駅から観光の中心である温泉街までは少々距離があるので今回は断念。
乗り継ぎを優先してしまう乗り鉄の悪い所だという自覚はある。

駅から10分ほど歩いた場所に渓谷橋という橋がかかっているらしく行ってみる。

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青いアーチ橋から養老川を望む

「青空と雲と山と川」という、小学生が夏休みの宿題に描いた絵の様な風景。
新生活が始まったり感染症が流行したりで忘れかけていたが、「夏が来る」というだけでワクワクしてしまうのは自分だけだろうか。

駅まで戻り、普通列車で一駅先の終点・上総中野駅へ。
ここでいすみ鉄道へと乗り換える。

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上総中野駅での小湊鉄道(右)といすみ鉄道(左)

いすみ鉄道上総中野駅から大原駅に至る第三セクター鉄道で、元々は木原線という国鉄の路線だった。
一時期は廃止の危機に瀕したが、現在もこうして小湊鉄道と共に鉄道による房総半島横断を担っている。
20分ほど乗車し、途中の大多喜で下車。

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大多喜の観光案内板

大多喜は中世から近世にかけて栄えた城下町で「房総の小江戸」と呼ばれる。
徳川家康に仕え、戦で傷一つ負わなかったといわれる武将、本多忠勝が城主だった時期もあり、お墓もこの地にある。

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現在も城下町を思わせる建物が残る「房総の小江戸

時刻は13時を過ぎていたので、「くらや」という蕎麦屋で昼飯。

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「くらや」さんの天せいろ

昼飯を食べた後は「房総中央鉄道館」へ。
中には鉄道模型のレイアウトや鉄道部品が所狭しと並ばれていた。
いい歳したおっちゃん達が模型の整備をしながら楽しそうに運営していた。
こういう老後に憧れてしまう。

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踏切と遮断機が目印の「房総中央鉄道館」

駅前の観光案内所でお土産を買い、駅に戻る。
ここからはいすみ鉄道「急行列車」に乗車。
車両はかつて国鉄・JRで使われ、優等列車から普通列車まで日本各地の非電化区間で活躍した気動車だ。

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いすみ鉄道の「急行列車」。国鉄ヘッドマークがファンには嬉しい

この車両に初乗車の筆者がそわそわしていると、女性の車掌がやってきた。
買っておいた急行券を差し出す。
「自分で入鋏してみますか?」という車掌の言葉に甘え、金属製のパンチャーで思い切り挟む。
「パチン!」硬券ならではの音が車内に響く。
筆者が物心ついた時には自動改札機が当たり前だったので、「懐かしい」というよりは「新鮮」である。

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右下の欠けた部分が入鋏の証

「この沿線一帯は、千葉県の中でも有数の米どころです。・・・」車内アナウンスで車窓の説明の通り、車窓には田園風景が広がる。

時間も限られているので、車内をうろうろしてみる。

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昔の車内広告がノスタルジーな雰囲気を高める

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晩年は富山で活躍していた車両。その名残

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「1964年に製造された車両です」東海道新幹線と同い年

約40分のノスタルジー体験はあっという間に終わり、終点の大原駅に到着。

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「昭和に撮影した写真」と言っても違和感ない

ここでJRに乗り換え、一路帰宅。

気兼ねなく旅行できる日はいつになるのか・・・

 

【今回のお土産】「最中 十万石」(大多喜)

某埼玉名菓みたいな名前だが、大多喜城下の石高に由来。
「甘いの好きだったらこれがいいよ!」と観光案内所のおばちゃんに薦められて購入。
粒あんがぎっしり詰まっており、お茶と一緒に食べたい一品。

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「うまい、うますぎる」・・・ではない